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2020年3月10日          はやく来いよ~

     厨から笛吹く薬缶春の雪    田島 和生

 湯を沸かすといえばポットを連想してしまう現代でも、薬缶は活躍しています。
けれど、あまり見慣れない「薬缶」という漢字の表記、さらに「笛吹く薬缶」という表現に惹かれました。
薬缶が感情を抱いている人間のように感じられます。
「沸いたぞ~、はやく来いよ~」と叫んでいるような薬缶が、かわいらしい。
 窓を見れば春の雪・・・しずかに、ゆっくりと降りてきます。
薬缶の笛と対比させた浅春の風景ですね。


2019年9月14日          風の盆
 

     また来られふたりで来られ風の盆    宮崎  修

 9月1日から3日まで、富山市八尾(やつお)では、おわら節が踊り流されます。

胡弓のもの悲しい音色、菅笠をつけた幻想的な踊りに、私たちは魅了させられます。
ことしも風の盆が終わり、坂の多い八尾の町は、静けさを取り戻したのではないでしょうか。
「来られ」というのは富山地方の方言で、「きてくださいね」というやさしい言い方です。
作者は、富山県西部の石動(いするぎ)町に生まれ、耳鼻咽喉科の開業医をしていました。
風の盆で八尾を訪れた際に、お店のひとに言われたのではないでしょうか。
富山弁にこの上ない愛着を持っていた作者の心を、とらえた挨拶だったのでしょう。
 「ふたりで来られ」が、いいですね・・・ 

 

2019年8月31日          青春日記


     乱れ字の青春日記黴の花    田島 和生

 乱れ字の青春日記ですか・・・素敵ですね。
私の大好きな一句です。
「青春日記」とは、ちょっと古風な言い回しですが、そこがいいところです。
作者の青春時代は昭和ののどかな日々、乱れ字で綴った1ページ1ページを懐かしく思いながらも、
照れ隠しのように「黴の花」という季語で締めくくっておられています。
これからも、青春日記の続きをご期待申し上げます。

 

2019年8月30日           


      葛の葉やひるがへる時音もなし    前田 普羅 

 夏から秋にかけて、当たり前のように目にしている葛・・・元気いっぱいに蔓延っています。
地に這う葛、宙に遊んでいる葛など、さまざまな葛のようすがみられます。
葛は秋の七草のひとつですが、あまりにも身近に見られるので、
私のなかでは、もっとも庶民的な草のように感じられます。
この季節、私たちに活力を与えてくれる葛の景色です。

 

 

2019年8月29日          稲の屏風
 

     奥能登は山より明けて稲架高し    福江 ちえり

 奥能登の日は、山から登ります。
日射しを遮るものが少ない奥能登では、朝の光はより眩しく感じられます。
 「稲架(はざ」とは、刈り入れた稲を天日にさらして乾かすために木や竹を組んだもので、
北陸地方に多く見られます。明るい空に、黄金色の稲束が高々と干されている、
まるで屏風のようだと作者は感動したのかもしれません。
「稲架」は一般的には「稲木(いなぎ)」と称されていますが、
その他にも「稲木(いなき・いのき)」、「稲機(いなばた)」、「稲掛け(いなかけ・いねかけ)」など、
多くの異称があります。

 

2019年8月27日          芋のピーラー


     只回る上へ上へと芋水車    阿波野 青畝

 「芋水車(いもすいしや)」という季語があります。
里芋を洗って皮を剥く、水車式の木製農具です。
うつくしい水の流れに、軽やかな水車の音が聴こえてくるような俳句、
水車の単調な動きと、泥が落とされてどんどんきれいになっていく芋の様子までが、想像できます。
 実りの秋は、もうすぐですね・・・

 

2019年8月24日          百日紅


     難聴となりて久しやさるすべり    藤田 初子

 暑い、暑いと言いつつも、秋の気配が感じられるようになりました。
けれど、百日紅の花は、依然として鮮やかな色を呈しています。
開花の期間が長いことより、「百日紅」という名がつけられました。
また、樹皮がツルツルしているので、木登り上手な猿でさえ滑るという意味より
「サルスベリ」と読まれるようになったということです。
たしかに「百日紅」を「サルスベリ」と読ませるのは、ちょっと無理がありますが、
いずれにせよ、百日紅を見ると、まだ夏は終わっていないように思われ、うれしくなります。
 
 この句には、百日紅の花を今年も見ることができた、耳がとおくなってもなお
視覚的感動は衰えていないという作者の喜びが伝わってきます。

 ほんとうにうつくしい百日紅!百日と言わず、一年中咲いていても、見飽きないと思います。
なお、「百日紅」と書いて「サルスベリ」と読ませるのが今では一般的ですが、
もともとは「百日紅」と書いて「ヒャクジツコウ」と読ませたり、
「猿滑」と書いて「サルスベリ」と読ませたりしていました。

 


2019年8月21日          露草

 朝起きて、驚きました。
庭に小さな青い花が咲いています。
よく見ると、雑草のなかにそこにも、ここにも・・・露草です。
この感動は、毎年訪れます。

     露草や素焼のほてりさましをり    宮岡 計次

露草は、英語ではdayflower、その日のうちにしぼむ花という意味です。
花の青い色素が着きやすいことより、「つき草」転じて「月草」と呼ばれ、万葉集にも登場します。
また、花の形状より「螢草」、「帽子花」という異名もあります。
 暑かったことしの夏も、そろそろ終わりに近づいているのですね・・・


2019年8月16日          雲の峰


     虹懸けて男盛りの雲の峰    沢木 欣一

 歳時記で「雲の峰」を引いたところ、たくさんの季語があるのに驚きました。
さらに「坂東太郎」、「信濃太郎」というように地名に「太郎」や「次郎」がついている。
なるほど、入道雲の男らしさ、逞しさに、古より多くの感動があったのですね。
関東では坂東太郎、関西では丹波太郎・・・
みなさんはこの夏、何処の太郎さんにお会いになられましたか・・・


 

2019年8月10日          金子兜太の俳句 炎天


     水脈の果て炎天の墓碑を置きて去る     兜太

昨年の2月20日、金子兜太先生は98歳で逝去されました。
太平洋戦争で海軍主計中尉としてトラック島に赴任し、昭和21年に復員する船の中で
この句を詠んだと伝えられています。
一緒に帰ることができなかった仲間のことを考え、やりきれない思いがこの句になりました。
今も兜太先生は、天国から平和のメッセージを送っておられるにちがいありません。


 

2019年8月15日          終戦日


     川を見て老人立てり終戦日    林  徹

 きょうは8月15日、終戦日です。
先の大戦を知らない人が大半になった現在ですが、史実だけはしっかり捉えていくべきでしょう。
また、戦後70年余り、平和の礎を築いてきた多くの先達に改めて感謝したいものです。
 令和の時代になって迎えた終戦日、この日を平和の日、すなわち平和について考える日と
捉えてもいいのではないでしょうか・・・

 

2019年8月15日         大丈夫か、茄子の馬!


     茄子の馬ゴーヤの馬に蹴散らされ    市堀 玉宗

 引き続き、茄子の馬についての記事です。
なんと、愉快なこと・・・
思わず笑いだしたくなるような俳句です。
お盆といえば、亡くなったひとのことを想ったりして、どちらかといえばしめやかな雰囲気を
連想するのですが、こんな楽しい俳句も生まれるのですね。
きっと、迎えられた魂は喜んでおられることでしょう。

 この句の作者は、お寺のご住職。昨日、この句を掲載させてほしいとお願いしたところ、
快諾していただきました。
たいへんユニークな市堀先生、ぜひ、法話も拝聴したいものです。
先生のお盆の俳句を、もうひとつ紹介させていただきます。

     盆棚の線香臭き馳走かな    玉宗

 

2019年8月11日          茄子の馬


     茄子の馬一本の足定まらず    浅見 光子

 お盆の季語に「茄子の馬」とか、「茄子の牛」という言葉がありますが、
あまり馴染みのない方も多いのではないでしょうか。実は、私も知りませんでした。
そこで調べてみましたところ、お盆に亡くなったひとの魂を迎えるため、
地方によっては、茄子や胡瓜を牛や馬に見立てて苧殻の足をつけ、魂棚に供える風習があります。
その牛や馬に形どった茄子を「茄子の馬」「茄子の牛」、胡瓜の場合を「瓜の馬」「瓜の牛」といいます。
「苧殻」とは麻の茎をいいますが、割り箸で代用されることもあります。
亡くなったひとの魂が、やってくるときには、足のはやい野菜である胡瓜の馬に乗ってくるようにと「瓜の馬」を、
そして帰るときには、足の遅い牛に乗ってゆっくり行くようにと「茄子の牛」を飾ることもあるということです。

 以前は、お盆が過ぎるとこれらを川に流していたようです。


2019年8月10日          金子兜太の俳句 炎天


     水脈の果て炎天の墓碑を置きて去る     兜太

 昨年の2月20日、金子兜太先生は98歳で逝去されました。
太平洋戦争で海軍主計中尉としてトラック島に赴任し、昭和21年に復員する船の中で
この句を詠んだと伝えられています。
一緒に帰ることができなかった仲間のことを考え、やりきれない思いがこの句になりました。

 今も兜太先生は、天国から平和のメッセージを送っておられるにちがいありません。

 

2019年8月8日          空を見れば・・・


     うすものを着て雲の行く楽しさよ   細見 綾子 

 梅雨明けが遅かったからでしょうか・・・
盛夏と思えば、きょうはもう立秋です。
けれど、暑さはこれからが本番・・・こんなとき、空を見て楽しむことができたら素敵ですね。
 流れゆく雲を羅ととらえ、楽しさと言い切ってしまう綾子の句に、思わず微笑んでしまいました。

 

2019年8月8日          能登の塩


     ひとつまみ麦茶にとかす能登の塩    大前 貴之

 またまた、能登塩田に関する俳句です。
実を言いますと、筆者は能登、特に奥能登が大好きなのです。
この句の作者も、青春時代を石川県金沢市で過ごしました。
だから、能登の塩には特別な思いがおありなのかもしれません。
 いずれにせよ、ミネラル豊富でおいしい能登の塩を少し麦茶に入れて飲むという
作者の健康的な夏の楽しみ方が窺えます。

 この句は、第19回俳人協会俳句大賞の栄に輝きました。

 

 

2019年8月7日          夏の平和公園にて


     白日傘平和公園出て開く    田島 和生

 今年も、8月6日を迎えました。
日本中、いえ、世界中がさまざまな思いを抱きながら、過ごしたことでしょう。
平和公園を後にして日傘を開いたこの句の主人公の、戦争の犠牲者への礼儀が伝わってきます。

 平和が続きますように、祈りをこめた一句であると思われます。

 

2019年8月7日          沢木欣一の塩田俳句


     塩田に百日筋目つけ通し   沢木 欣一

 塩は、ひと夏に100日の塩田作業ができれば豊作といわれています。
昭和30年、過酷な塩田作業をテーマとした「能登塩田」25句を発表した沢木は、
社会性俳句の俳人として、知られるようになりました。
砂に海水を撒き、「枝振(えぶり)」という道具で筋目をつけて乾燥を促す作業が
100日続きますように・・・沢木の祈りが、この句になりました。